結論ではなく、判断の過程を全部書きます。前提が違えば結論も変わります。だから、どこをどう見て、どこで分かれるのかを順に置いていきます。
まず、私の前提を開示します
最後の1行が、結論をいちばん動かします。ここが違う方は、同じデータを見ても違う結論になります。それは間違いではありません。
STEP 1
効果でも、値段でもありません。製品名です。
理由は単純で、同じ成分が、二つの名前で売られているからです。
| 製品名 | 承認された効能 | 処方の条件 |
|---|---|---|
| ゼップバウンド | 肥満症/中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸 | 厳しい条件があります |
| マンジャロ | 2型糖尿病のみ | 条件はありません |
どちらもチルゼパチドという同じ成分です。左には、学会専門医が常勤し常勤の管理栄養士がいる施設でしか出せない、といった条件がかかります。右にはかかりません。
自由診療の「医療ダイエット」で出されるのは、多くの場合右側です。
なぜここを最初に見るのか
名前が分かれば、あとは全部たどれます。承認された効能も、対象になる人も、要件も、公開された文書に書いてあります。逆に、名前が分からないと何も確かめられません。
「痩せる注射です」としか説明されなかったら、私はそこで一度止まります。
STEP 2
日本人を対象にした試験があります。その組入れ基準と、自分を照らします。
| 試験に入れた条件 | 私は |
|---|---|
| BMI 27以上で、肥満に関連する健康障害が2つ以上 または BMI 35以上で1つ以上 | BMI 24 該当しません |
| 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかがある | ありません |
| 体重を減らす食事の取り組みに、1回以上失敗している | — |
| 開始時の平均体重 | 約 92kg |
私はこの試験に入れません。ひとつも該当しないからです。
では、私のような条件の人を対象にした試験はあるのか。探しました。PubMed で、標準体重の人への投与を調べた無作為化比較試験を検索すると5件出てきますが、中身を見ると、痩身・美容目的のものは1件もありません(1型糖尿病の治療、肥満患者を対象にした試験の解析、薬理研究などでした)。
この時点で分かること
私と同じ条件の人のデータは、公開されている範囲では存在しません。
効果も、安全性も、私については分からない、ということです。「効かない」ではありません。「調べられていない」です。この二つは、まったく違います。
STEP 3
ここは、効果の大きさより先に見ます。なぜなら、始めるかどうかではなく「どれくらい続ける話なのか」を決める材料だからです。
8つの無作為化比較試験を統合したメタ解析があります。
やめると、セマグルチド/チルゼパチドでは平均 9.69kg 戻りました。
95%信頼区間は 5.78〜13.60kg。戻る量は、もともと減った量に比例していました。著者らは「生活習慣への介入の有無にかかわらず戻る」と結論しています。参加者は全員 BMI 27以上でした。
個別の試験でも同じ形です。36週で平均20.9%減った670人を、くじ引きで「続ける」と「やめる」に分けて52週追いかけると、やめた群は14.0%戻り、減った体重の8割以上を保てたのは6人に1人でした。
私がここで考えること
これは「半年で終わる話」ではないな、ということです。続ける前提の治療なら、費用も続きます。
当サイトが観測した表示価格の中央値は月18,000円(39件・2.5mg 4週相当)。単純に掛けると1年で21.6万円、5年で108万円です。診察料も検査料も含まない額で、増量すれば単価は上がります。
STEP 4
本当の分岐点
何のために痩せたいのか。健康のためか、見た目のためか。
ここまで見てきたデータは、全部この問いの手前にあります。そして、この問いにデータは答えてくれません。答えるのは本人だけです。
健康のためだとすると、私のBMIは24で、日本肥満学会の基準では肥満(BMI 25以上)に該当しません。血圧も血糖も脂質も指摘がありません。この状態で体重を減らすことに、医学的な理由が見当たりません。
見た目のためだとすると、話は変わります。これは価値観の問題で、否定されるべきものではありません。「痩せた自分でいたい」という気持ちは、医学の外にあります。医学が答えられないだけで、間違っているわけではありません。
ただし、その場合でもデータが無いことは変わりません。私と同じ条件で、どれくらい減って、どんな副作用がどれくらい出るのか。それは分かっていません。分からないまま選ぶ、ということになります。
私の条件は上のとおりですが、次のどれかに当てはまる方は、結論が変わります。
高血圧、脂質異常症、2型糖尿病。どれかがあるなら、話がまったく変わります。体重を減らすことに医学的な理由が出てくるからです。
私なら、まず保険診療の医師に相談します。自由診療を先に検討しません。承認された治療の対象になる可能性がありますし、そちらには毎月の検査と栄養指導が付きます。
健康障害が2つ以上あれば、承認された治療の対象になりうる範囲です(BMI 35以上なら1つ以上)。
私なら、承認された治療を先に確認します。薬代は3割負担で月約12,888円。自由診療の中央値18,000円より安く、しかも救済制度の対象です。ただし処方できる施設は限られていて、近くにないこともあります。そこまで確かめてから、自由診療を考えます。
結婚式、撮影、久しぶりに人に会う日。そういう期限があるなら、それは合理的な動機です。
私なら、始める前に2つを決めます。①いつやめるか ②総額いくらまでか。やめたら戻ることを前提に、期間と金額を先に区切ります。始めてから決めると、区切れなくなります。
私の結論
私は受けません。理由は2つです。
ひとつは、私と同じ条件のデータが無いこと。効果も安全性も、私については分かりません。分からないものに、副作用の可能性と費用を払う理由が、私には見つかりませんでした。
もうひとつは、続ける覚悟がないこと。やめたら戻るなら、これは続ける前提の治療です。私は5年続けるつもりがありません。それなら、始める意味も薄いと考えました。
「受けない」だけ書くのはフェアではないので、逆も書きます。
私が受けないと決める条件
製品名を教えてもらえないとき。これは、それだけで判断を止める理由になります。
副作用が出たときの連絡先が分からないとき。とくにオンラインのみの診察では、ここを確かめないまま始めません。
その日のうちに決めるよう言われたとき。急ぐ理由が私の側にないなら、急がされる理由もありません。
ここまでが、私の判断の過程です。あなたの条件と価値観が違えば、結論も変わります。そのために、答えではなく過程を書きました。
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