水素吸入・水素点滴(水素療法)
水素が体内の活性酸素を減らす、という理屈は動物実験で示され、それを人で確かめる試験が日本で行われました。結果は「主要評価で差なし、副次評価で差あり、症例数不足」。この試験を「先進医療に選ばれた」とだけ引用する施設の説明とは、かなり違う絵です。
2%の水素を混ぜた酸素を吸う、または水素を溶かした生理食塩水を点滴する治療です。慶應大学などが心停止後症候群に対して先進医療B(2016年12月〜)として無作為化二重盲検試験(HYBRID II)を行い、COVID-19で登録が止まって予定360例のうち73例で終了。主要評価項目(90日後に後遺症なしか軽度)は水素群56%対対照群39%で統計的に有意ではなく(p=0.15)、副次評価の90日生存率は85%対61%(p=0.02)でした。厚労省の先進医療技術審査部会(2023年7月)は総合評価を「C(従来の医療技術と同程度)」としています。水素水の系統的レビュー(25報、2024年)は「予備的で、大規模で厳密な研究が必要」、脂質へのメタ解析(13試験757人)は総コレステロール−6.7mg/dLと「臨床的に意味のある閾値を下回る」効果でした。自費クリニックの吸入は20〜60分で1,200〜4,500円、点滴は1回10,000〜16,500円で、施設自身が「承認を得ている医療機器はありません」「承認目的外使用」と書いています。国民生活センターには水素水関連の相談が2011〜2016年に16,826件ありました。
① 国内で承認されている使い方
水素吸入は「院外心停止後患者に対する水素ガス吸入療法」として2016年12月に先進医療Bに承認され、大学病院を中心に無作為化試験(HYBRID II)が行われましたが、症例数未達で2022年に終了、2023年の最終評価は「従来技術と同程度」でした。水素ガスや吸入機器はどの疾患にも薬事承認されておらず、自費クリニックの吸入・点滴は承認外で、施設自身がそう明記しています。水素水は食品(清涼飲料水)で、効能を表示することはできません。
② 臨床試験で確かめられていること
心停止後の脳: 有望な副次結果はありますが、主要評価では差が出ず、試験は途中で終わりました。集中治療室で18時間吸入する治療で、クリニックの30分吸入とは別物です。
疲労・肌・免疫・アンチエイジング: 測った無作為化試験を確認できませんでした。
脂質: 水素水で総コレステロールが7mg/dL下がるという結果はありますが、臨床的に意味のある大きさではありません。
体感(すっきりする等): 偽の吸入と比べた試験がないので、水素の効果と区別できません。
- 誰に
- 院外心停止後に循環が戻ったが意識のない患者73人(水素39・対照34、15施設、2017〜2021年。予定360例をCOVID-19で早期終了)
- 何を
- 2%水素添加酸素の18時間吸入(体温管理療法に追加)
- 何と比べて
- 酸素のみ(プラセボ)
- どうなった
- 主要評価(90日CPC 1〜2)56% vs 39%、RR 0.72(0.46〜1.13)、p=0.15で有意差なし。副次: mRS 0は46% vs 21%(p=0.03)、90日生存85% vs 61%(p=0.02)。「良好な神経学的転帰の増加は統計的に有意ではなかった。副次評価は後遺症なしの生存を増やす可能性を示す」。資金提供: 太陽日酸
- 誰に
- 上記HYBRID IIの総括報告書
- 何を
- 院外心停止後患者に対する水素ガス吸入療法(先進医療B)
- 何と比べて
- 従来の医療技術(体温管理療法)
- どうなった
- 有効性「C(従来の医療技術を用いるのと同程度)」、安全性「余り問題なし」。「当初は180人と180人…それぞれの群で30人弱の患者の組入れに終わってしまった」「360例中の73例の段階で、症例数未達で試験が終了」。申請時の費用: 総費用3,974,896円、先進医療部分778,990円(企業負担743,380円)、患者負担0円
- 誰に
- 水素水の臨床研究25報/過体重・肥満の成人757人(13の無作為化試験)
- 何を
- 水素水の飲用
- 何と比べて
- 通常の水・プラセボ
- どうなった
- 系統的レビュー: 「予備的な結果は有望だが、より大規模で厳密な方法論の研究が必要」。脂質メタ解析: 総コレステロール−6.71mg/dL(−10.38〜−3.04)、LDL −3.21、HDL −1.16、中性脂肪差なし。「臨床的に意味のある閾値を下回り、研究以外での日常的使用を正当化しない」。PubMed抄録で確認
この数値はレビュー論文を通じて確認したものです。原著論文そのものの確認は済んでいません。
- 誰に
- 健康な人・がん患者など、自費クリニックが対象とする人
- 何を
- クリニックでの水素吸入(20〜60分)・水素点滴
- 何と比べて
- —
- どうなった
- 疲労回復・肌・免疫・がんの進行抑制・二日酔いを評価項目にした無作為化試験を確認できませんでした。水素点滴(水素含有生理食塩水)の人での無作為化試験も確認できていません(検索は吸入・水素水が中心)
※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。
③ まだ答えの出ていないこと
- 心停止後症候群への水素吸入の効果(HYBRID IIの副次結果を主要評価で確認する第III相試験が準備中とされます)。
- 健康な人が短時間吸入したときの体内水素濃度と、何かの指標が変わるかどうか。
- 水素点滴に含まれる水素の量(施設は約1ppmと説明)と、それが体内でどこまで届くか。
- 施設間で食い違う副作用の説明(「なし」vs「ショック・血栓症」)のどちらが根拠に基づくか。
④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え
添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。
- 起こりやすい人
- 誰にでも(施設の説明)。
- 起こる時期
- 吸入中〜当日。
- 備え
- 軽度。
- 起こりやすい人
- 心不全・腎不全のある人(施設が禁忌に)。
- 起こる時期
- 点滴中〜当日。
- 備え
- 500mLの点滴は水分負荷になる。
- 起こりやすい人
- 頻度不明。
- 起こる時期
- 点滴中。
- 備え
- 一部の施設が副作用に列挙。水素自体より点滴の手技・添加物に由来する可能性。
- 起こりやすい人
- がん・慢性疾患の人が治療の代わりにする場合。
- 起こる時期
- 数か月〜。
- 備え
- 自費用途の試験はなし。標準治療を止めない。
- 起こりやすい人
- 回数券・フリーパスで通う人。
- 起こる時期
- 継続中。
- 備え
- 月11,000円のフリーパスの例。年13万円。
- 起こりやすい人
- 容器入り水素水を買う人。
- 起こる時期
- 購入時。
- 備え
- 国民生活センターが2016年に指摘。
⑤ やめるとき
終わりの目安はありません。施設は継続を前提に回数券・月額制を設けています。
いつでもやめられます。
やめて失うものは確認されていません(効果自体が測られていないため)。
回数券・フリーパスの未使用分の返金条件を契約前に。
⑥ 価格
A施設(内科): 吸入20分1,200円・30分2,400円(機器で異なる)、点滴500mL 10,000円(約60分、約1ppm)、「副作用はありません」と説明。B施設: 吸入30分3,000円(税別=3,300円)、点滴15,000円(税別=16,500円)、「承認目的外使用」と明記しつつ副作用にショック・アナフィラキシー・血栓症を列挙。C施設: 吸入 初回30分1,200円・30分2,500円・60分4,500円、回数券15回27,000円(1,800円/回)、「承認を得ている医療機器はありません」と明記。吸入30分で最安と最高が約1.4倍、点滴で約1.7倍。3施設の確認で、相場ではありません。
承認機器・承認薬ではないので公定価格はありません。先進医療で行われた治療は患者負担0円の研究でした。同じ「水素」でも、集中治療室での18時間吸入と、クリニックの30分吸入は用量も対象も別で、後者の効果を測った試験はありません。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。
⑦ 診察で聞くこと
そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。
- 水素吸入で承認された医療機器はなく、心停止後症候群の先進医療は主要評価で差が出ずに終わったと理解しています。私の目的(疲労・美容など)で効果を測った試験はありますか。
- この機器の水素濃度と流量、30分の吸入で体内に入る水素の量はどのくらいですか。
- 点滴の中身(水素濃度・添加物)と、副作用として挙げているショック・血栓症の根拠は何ですか。
- 回数券・フリーパスの返金条件を教えてください。
関連する読みもの
出典
最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。
- Efficacy of inhaled hydrogen on neurological outcome following brain ischaemia during post-cardiac arrest care (HYBRID II). EClinicalMedicine. 2023;58:10190773人。主要評価56% vs 39%(p=0.15)、mRS 0 46% vs 21%、90日生存85% vs 61%、早期終了、資金 太陽日酸。PubMed抄録で確認
- 厚生労働省 第150回先進医療技術審査部会 議事録(2023年7月13日)/先進医療Bの内容(概要)「院外心停止後患者に対する水素ガス吸入療法」(2016年)総合評価C(従来技術と同程度)、症例数未達(360例中73例)、費用(総費用3,974,896円・患者負担0円)、2%水素18時間。原文ページ・PDFを確認
- Int J Mol Sci. 2024;25(2):973(水素水の系統的レビュー)/Diabetol Metab Syndr. 2026;18(1):114(脂質のメタ解析)予備的・大規模研究が必要/TC −6.71mg/dLで臨床的意義の閾値未満。PubMed抄録で確認したため二次資料扱い
- 国民生活センター「容器入り水素水」(2016年12月15日 報道発表)相談16,826件(2011〜2016年11月)、表示より少ない水素濃度、根拠のない効能表示の指摘。原文ページを確認
- 当サイトによる文献調査(PubMed、2026-09-05)疲労・美容・免疫・がん・二日酔いへの水素吸入、水素点滴の無作為化試験を確認できず
- 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、3施設)吸入1,200〜4,500円、点滴10,000〜16,500円、回数券・フリーパス、「承認機器なし」「承認目的外使用」の明記、副作用説明の食い違い、禁忌(G6PD欠損・心不全・腎不全)。施設名は扱いません