ケタミン点滴(うつ・自由診療)
「数時間で効く抗うつ薬」は本当です。問題は、その効果が数日で切れること、そして日本では麻酔薬を麻薬の管理下で承認外に使っていることを、施設の説明がどこまで正面から書いているかです。
全身麻酔薬ケタミン(販売名ケタラール)を、麻酔量より少ない量で40分〜1時間点滴し、うつ症状を短時間で軽くしようとする治療です。Cochraneレビュー(2021年)では、単回点滴で24時間後の反応・寛解がプラセボの3.94倍(確実性は非常に低い)、うつ病評価尺度の差はSMD −0.87。電気けいれん療法との直接比較(ELEKT-D、403人)では、反応率55.4%で電気けいれん療法の41.2%に非劣性でした。ただし単回の効果は数日で切れ(0.5mg/kgで寛解した人の50%が14日以内に再発)、6回程度繰り返すと反応率59%、その後は週1回の維持で保たれたという報告があります。日本ではケタミンは2007年から麻薬に指定され、うつ病への承認はなく、鼻スプレーのエスケタミンは日本人の第2b相試験で有効性が確立せず未承認です。副作用は解離・血圧上昇(平均32%上昇)・吐き気で、長期使用の安全性(依存、膀胱障害、認知)は評価されていません。1回55,000円、6回で33万円が3施設で共通でした。
① 国内で承認されている使い方
ケタミン(ケタラール、第一三共)の国内承認は全身麻酔とその導入だけで、うつ病への適応はありません。2007年1月1日から麻薬に指定され(政令第59号)、医師は都道府県の麻薬施用者免許、施設は鍵付きの専用保管が必要です。うつ病への静脈内投与は医師の裁量による承認外使用(自由診療)で、医薬品副作用被害救済制度の対象外です。米国で承認されている鼻スプレーのエスケタミン(スプラバート)は、日本人での第2b相試験で有効性が確立せず、国内未承認です(2026年8月時点、二次確認)。日本うつ病学会の治療ガイドラインで研究段階と位置づけられているとの記述は検索結果で見ましたが、本文で確認できていません。
② 臨床試験で確かめられていること
早さ: 点滴の数時間後〜翌日に軽くなる人がいます。従来の抗うつ薬(数週間)とは時間の単位が違います。
持続: 単回では数日〜1週間で戻ります。繰り返し(6回程度)と維持(月1回など)が前提で、その分費用も続きます。
誰に: 試験の対象は「2剤以上の抗うつ薬が効かなかった治療抵抗性うつ病」です。初めての軽いうつに使う根拠はありません。
確実性: Cochraneは短期効果の確実性を「非常に低い」と評価。ELEKT-Dは非劣性試験で、ケタミンが電気けいれん療法より優れることを示したものではありません。
- 誰に
- 単極性うつ病の成人5,299人(64研究。ケタミン31試験。19研究は治療抵抗性のみ)
- 何を
- ケタミン静注(多くは単回0.5mg/kg)
- 何と比べて
- プラセボ/ミダゾラム
- どうなった
- 24時間後の反応・寛解: プラセボに対し勝算比3.94(1.54〜10.10、7試験185人、確実性は非常に低い)。うつ評価尺度SMD −0.87(−1.26〜−0.48、8試験231人)。ミダゾラム対照の寛解OR 2.21(0.67〜7.32、確実性低い)。中止率に差なし
- 誰に
- 精神病症状のない治療抵抗性うつ病403人(5施設、無作為化、非盲検)
- 何を
- ケタミン0.5mg/kg点滴を週2回・3週間
- 何と比べて
- 電気けいれん療法(週3回・3週間)
- どうなった
- 反応率55.4% vs 41.2%(差14.2ポイント、95%信頼区間3.9〜24.2、非劣性)。電気けいれん療法は3週時点の記憶再生の低下(回復あり)、ケタミンは解離。生活の質の改善は同等
- 誰に
- 治療抵抗性うつ病の成人
- 何を
- 単回(ミダゾラム対照クロスオーバー)→6回の反復→週1回の維持
- 何と比べて
- ミダゾラム(単回相)
- どうなった
- 単回は24時間後の改善がミダゾラムより大きい。反復で効果が積み上がり反応率は2倍化、59%が反応(反応までの中央値3回)。週1回の維持中はMADRSに変化なし(保たれた)
- 誰に
- 治療抵抗性うつ病60人(0.1/0.5/1.0mg/kg単回)
- 何を
- ケタミン単回点滴
- 何と比べて
- 用量どうし
- どうなった
- 3日後に寛解34%・反応48%。14日以内の再発は寛解者で1.0mg/kg 38%、0.5mg/kg 50%、0.1mg/kg 100%(反応者で30%・50%・80%)。少数例
- 誰に
- 日本人の治療抵抗性うつ病202人(エスケタミン122人/プラセボ80人)
- 何を
- エスケタミン点鼻28・56・84mg+抗うつ薬、4週
- 何と比べて
- プラセボ点鼻+抗うつ薬
- どうなった
- MADRS変化 −15.2/−14.5/−15.1 vs プラセボ−15.3で有意差なし。「日本人TRD患者での有効性は確立されなかった」。副作用は血圧上昇・解離・めまい・傾眠・吐き気など(12.3〜41.0%、プラセボの2倍超)
※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。
③ まだ答えの出ていないこと
- 月1回などの維持投与を年単位で続けたときの効果と安全性(依存、認知、膀胱)。試験の多くは単回〜数週間です。
- 日本人での静注ケタミンの無作為化試験。エスケタミン点鼻は日本人で有効性が示されませんでした。
- 自費クリニックが公表する「有効性76%」などの数字の査読済みデータ。
- 解離体験の強さと効果の関係、および解離が「効いた感じ」と混同されないか。
④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え
添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。
- 起こりやすい人
- 誰にでも(用量依存)。
- 起こる時期
- 点滴中〜終了後1〜2時間。
- 備え
- 一過性。当日の運転は不可。付き添いか個室での回復を。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。静注で平均32%上昇。高血圧(160/100以上)・脳血管障害・心不全は禁忌。
- 起こる時期
- 点滴開始1〜5分で最大、その後低下。
- 備え
- 血圧を測りながら行う施設か。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。
- 起こる時期
- 点滴中〜当日。
- 備え
- 空腹での実施など施設の指示に従う。
- 起こりやすい人
- 麻酔量に近づくほど。添付文書で呼吸抑制2.5%、痙攣0.4%(麻酔用量)。
- 起こる時期
- 点滴中〜直後。
- 備え
- 気道管理と酸素、モニターのある施設で。
- 起こりやすい人
- 依存の既往、頻回・長期の使用。
- 起こる時期
- 数か月〜。
- 備え
- 添付文書「外国において乱用により依存性」。麻薬指定の理由でもある。維持投与の頻度を医師と決め、処方薬の持ち帰りはしない。
- 起こりやすい人
- 頻回・長期・高用量(乱用者で確立)。医療用量での頻度は不明。
- 起こる時期
- 数か月〜年単位。
- 備え
- 頻尿・排尿痛・血尿が出たら中止して泌尿器科へ。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。
- 起こる時期
- 点滴後数日〜数週間。
- 備え
- 単回では14日以内に半数が再発。維持計画と費用を先に決める。
⑤ やめるとき
導入は3週間で最大6回、その後は月1回の維持が施設の標準。維持をいつまで続けるかの根拠は確立していません。
いつでもやめられます。医療用量での身体的離脱は確立していませんが、頻回使用では依存に注意。
効果は数日〜数週間で戻ります。やめたあとの再発予防(抗うつ薬・精神療法)を並行して組む。
1回払い。回数券の返金条件と、維持の月額を年額にして確認。
⑥ 価格
A施設: 点滴55,000円、筋注88,000円、初診11,000円、個室22,000円(2時間)。B施設: 点滴55,000円、個室22,000円、相談料5,000円(治療時は不要)、40分〜1時間、週1〜2回で計6回、その後月1回。C施設: 点滴55,000円、筋注88,000円、初診11,000円、3週間に最大6回、維持は月1回、最低3回連続を推奨。点滴の1回料金は3施設で同額でした。6回で330,000円、その後月1回の維持で年間660,000円。3施設の確認で、相場ではありません。
薬そのもの(ケタラール200mg瓶)の薬価は1,618円で、体重60kgに0.5mg/kgなら30mg、1瓶の一部です。55,000円の内訳は薬ではなく、麻薬の管理、医師の監視、点滴時間、施設の利益です。維持を続ける限り毎月かかる費用として、年額で考えてください。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。
⑦ 診察で聞くこと
そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。
- 私は「抗うつ薬2剤以上が効かなかった治療抵抗性うつ病」に当たりますか。電気けいれん療法や保険のTMSより先にケタミンを選ぶ理由は何ですか。
- 麻酔薬ケタラールをうつ病に承認外で使う自由診療で、救済制度の対象外だと理解しています。麻薬施用者免許を持つ医師が、血圧・呼吸のモニター下で行いますか。
- 何回で効果を判定し、効いた場合の維持は何回・いくらですか。1年続けた場合の総額は。
- 解離や血圧上昇が出たときの対応と、当日の帰宅方法(運転不可)について教えてください。
- 施設が示す有効率の出典は査読済みの論文ですか。
関連する読みもの
出典
最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。
- ケタラール静注用50mg/200mg 添付文書(KEGG MEDICUS収載版で確認)効能(全身麻酔・吸入麻酔の導入)、禁忌(脳血管障害・高血圧160/100以上・脳圧亢進・重症心不全)、重大な副作用(急性心不全、呼吸抑制2.5%、痙攣0.4%、覚醒時反応)、血圧上昇平均32%、外国での依存性、規制区分(劇薬・麻薬・処方箋医薬品)、薬価680円/1,618円
- 厚生労働省 薬食発第323014号(平成18年3月23日)麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令の施行について/厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課「ケタミンの取扱い(質疑応答)」2006年8月ケタミンの麻薬指定(政令第59号)、施行日2007年1月1日、指定理由(麻薬と同種の有害作用・濫用のおそれ)、麻薬施用者免許、専用の鍵付き保管。原文ページ・PDFを確認
- Dean RL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;9:CD01161264研究5,299人。単回ケタミン24時間後の反応・寛解OR 3.94(確実性は非常に低い)、SMD −0.87、ミダゾラム対照。PubMed抄録で確認
- Anand A, et al. N Engl J Med. 2023;388(25):2315-2325(ELEKT-D)/Phillips JL, et al. Am J Psychiatry. 2019;176(5):401-409/J Affect Disord. 2020;260:131-139ECTとの非劣性(55.4% vs 41.2%)、反復・維持(反応59%、週1回で維持)、単回後の再発(14日以内に寛解者の38〜100%)。PubMed抄録で確認
- Short B, et al. Lancet Psychiatry. 2018;5(1):65-78/Castellani D, et al. Neurourol Urodyn. 2020;39(4):1049-1062副作用の系統的レビュー(60論文、長期・反復の安全性評価が乏しい、報告の偏り)、ケタミン膀胱炎(乱用者、潰瘍性膀胱炎・水腎症)。PubMed抄録で確認
- Takahashi N, et al. BMC Psychiatry. 2021;21(1):526日本人TRD 202人の第2b相。プラセボと差なし、有効性未確立。PubMed抄録で確認。エスケタミンの国内未承認(2026年8月時点)は検索結果による二次確認
- 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、3施設)点滴55,000円・筋注88,000円・初診・個室、回数と頻度、承認外使用と救済制度対象外の明記、禁忌、施設独自の有効率(査読中)。施設名は扱いません