TMS治療(磁気刺激・自費のうつ治療)
「薬に頼らない」「副作用が少ない」は正しい。ただし効くのは、薬で効かなかった中等症以上のうつ病に、承認機器を1日40分・週5日あてた場合です。自費の15分・週2回が同じ治療かは、別に確かめる必要があります。
頭の外からコイルで磁場をかけ、脳の前の部分(背外側前頭前野)を繰り返し刺激する治療です。日本精神神経学会の適正使用指針は、偽刺激と比べたメタ解析の効果量をSMD 0.45(単極性うつ病では0.60、中等度)とし、電気けいれん療法には劣ると書いています。承認機器(NeuroStar)の2件の大規模二重盲検試験では、治療反応率15%・23.9%、寛解率14.1%・14.2%でした。ネットワークメタ解析(113試験・6,750人)では、高頻度左rTMSの反応の勝算比は偽刺激の3.17倍、間欠的シータバースト3.20倍、電気けいれん療法は8.91倍です。効果は1年後に初回反応者の46.3%で持続しています。2019年6月から、抗うつ薬で効果が不十分な中等症以上の成人に、承認機器で1日40分・週5日・最長8週30回まで保険が使えます(1回2,000点)。自費のクリニックは、保険の対象外の人(軽症・双極性・不安・発達障害など)に、認証機器(磁気刺激装置)を1回15分程度・週2〜3回で使い、1回4,950〜11,000円、30回前後で16万〜28万円です。保険の対象なのに自費で受ける理由、自費の機器と手順が試験で効果を示したものと同じか、を確認する必要があります。
① 国内で承認されている使い方
経頭蓋治療用磁気刺激装置NeuroStarは2017年9月に「既存の抗うつ薬で十分な効果が認められないうつ病」の治療機器として承認され、2019年6月から保険適用(1回2,000点、8週30回まで、施設基準あり)。保険の対象は中等症以上・薬で効果不十分な成人に限られます。自費のTMSクリニックで使われる機器の一部(TAMASなど)は「磁気刺激装置」としてクラスIIの認証を受けたもので、販売元はうつ病などを「臨床研究適用」として掲げています。承認機器でも、保険の要件を満たさない人(軽症・双極性・不安症・発達障害・18歳未満など)への使用は自費=承認外の使い方です。
② 臨床試験で確かめられていること
反応(症状半減)は偽刺激の約3倍の勝算比。それでも二重盲検試験の反応率は15〜24%、寛解率は14%で、「7割が改善」は非盲検レジストリの自記式評価の数字です。
電気けいれん療法(ECT)には劣ります。重症や希死念慮が切迫している人はTMSで時間を使わないこと。
効果は数週間かけて出ます。1〜2回で判断はできません。
1年後も半数弱で効果が続きます。半数は再発・減弱するので、その後の治療計画(薬・維持TMS)を最初に決めておく。
- 誰に
- 抗うつ薬で十分な効果が得られない中等症以上のうつ病の成人
- 何を
- NeuroStar TMS治療装置による高頻度左rTMS(1日40分、週5日、4〜6週)
- 何と比べて
- 偽刺激
- どうなった
- メタ解析の効果量SMD 0.45(0.33〜0.57)、単極性で0.60(0.42〜0.78)。2件の大規模二重盲検試験の治療反応率15%・23.9%、寛解率14.1%・14.2%。非盲検レジストリ(PHQ-9)では反応率53.8%・寛解率25.0%。電気けいれん療法の抗うつ効果には劣る。反応者の6〜12か月再発率10〜30%
- 誰に
- 大うつ病または双極性うつ病の成人6,750人(113の無作為化試験、262群)
- 何を
- rTMS各手順・シータバースト・tDCS・電気けいれん療法など18の治療
- 何と比べて
- 偽刺激
- どうなった
- 反応の勝算比: 両側電気けいれん療法8.91(2.57〜30.91)、両側rTMS 4.92(2.93〜8.25)、低頻度右rTMS 3.65、間欠的シータバースト3.20(1.45〜7.08)、高頻度左rTMS 3.17(2.29〜4.37)。試験の83%はバイアスリスクが低いまたは不明で、推定の精度はまちまち
- 誰に
- 治療抵抗性うつ病の成人414人(10Hz rTMS 205人/間欠的シータバースト209人)
- 何を
- 間欠的シータバースト刺激(約3分)
- 何と比べて
- 10Hz高頻度rTMS(37.5分)、4〜6週
- どうなった
- HRSD-17は23.5→13.4(10Hz)、23.6→13.4(iTBS)で非劣性。刺激の痛みはiTBSでやや強い(3.8 vs 3.4/10)。頭痛は64%・65%。中止率6%・8%
- 誰に
- rTMSに初回反応したうつ病患者(3か月732人、6か月695人、12か月247人)
- 何を
- 急性期rTMS後の経過(維持治療あり/なし)
- 何と比べて
- —
- どうなった
- 反応の持続: 3か月66.5%(57.1〜74.8)、6か月52.9%(40.3〜65)、12か月46.3%(32.6〜60.7)。維持治療を受けた群で持続率が高い
- 誰に
- 治療抵抗性うつ病29人(実刺激14人/偽刺激15人)
- 何を
- 機能的結合で標的を決めた高用量iTBS(5日間)
- 何と比べて
- 偽刺激
- どうなった
- 4週後のMADRS減少率52.5% vs 11.1%。中間解析で有効と判定。持続性と他治療との比較は今後の課題。国内で自費クリニックが「集中プラン」として提供する手順がこれと同一かは確認できていません
この数値はレビュー論文を通じて確認したものです。原著論文そのものの確認は済んでいません。
※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。
③ まだ答えの出ていないこと
- 自費クリニックの短時間(15分前後)・週2〜3回・認証機器での手順が、試験で効果を示した手順(承認機器・40分・週5日)と同じ効果を持つか。当サイトはその比較試験を確認できませんでした。
- 軽症うつ・不安症・発達障害・不眠へのTMSの効果(国内承認外。指針は軽症を適応外としています)。
- 維持TMSの最適な頻度と期間。
- 18歳未満での有効性と安全性(学会声明: 証左は不十分)。
④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え
添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。指針で30%前後。
- 起こる時期
- 刺激中〜当日。
- 備え
- 回を重ねると慣れることが多い。強度調整で対応。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。頭痛10%未満、肩こり10%前後(指針)。試験では頭痛64〜65%。
- 起こる時期
- 当日〜翌日。
- 備え
- 鎮痛薬で対応可。
- 起こりやすい人
- てんかん既往・頭蓋内病変・睡眠不足・飲酒・けいれん閾値を下げる薬を飲む人で高い。
- 起こる時期
- 刺激中。
- 備え
- 1セッションあたり0.003%、患者1人あたり0.07%。対応できる施設か(けいれん時の連携体制)を確認。
- 起こりやすい人
- 双極性障害が隠れている人。
- 起こる時期
- 治療中〜数週間。
- 備え
- 双極性は指針で適応外。躁転時に入院連携できる施設か。
- 起こりやすい人
- 誰にでも(頻度小)。
- 起こる時期
- 刺激中〜。
- 備え
- 耳栓の着用。
- 起こりやすい人
- 重症・希死念慮のある人、双極性、軽症で対象外の人。
- 起こる時期
- 数週間〜。
- 備え
- 二重盲検の反応率は15〜24%。重症は電気けいれん療法が優先。効かないときの次の治療を最初に決める。
- 起こりやすい人
- 反応した人の半数。
- 起こる時期
- 3か月〜1年。
- 備え
- 12か月で持続46.3%。維持治療の要否を相談。
⑤ やめるとき
保険は8週30回が上限。指針は1クール後に評価。自費は10〜30回のコースが多く、終わりは施設が決めます。
いつでもやめられます。離脱症状はありません。回数券・コース契約の返金条件は契約前に確認。
効いた人の半数弱は1年後も効果が続き、半数は再発・減弱します。再発時は薬・維持TMS・他の治療を相談。
コース前払いが多い。途中でやめたときの返金規定と、維持TMSの料金を最初に確認。保険の対象になる病院への紹介を頼めるかも聞く。
⑥ 価格
A施設は1回6,600円(10回49,500円=4,950円/回)、初診11,000円、31回159,500円、31回+脳波検査181,500円。B施設は初回4,980円、8回88,000円(11,000円/回)、16回158,400円、32回281,600円(8,800円/回)、1回約15分、機器は認証機器TAMAS(施設は個人輸入と説明)。C施設は1回6,600円を基本に機器の使用時間で変動、最低週2回。30回前後の総額で最安と最高が約1.8倍。保険では1回2,000点(10割で20,000円相当)を8週30回まで算定でき、自己負担は保険の負担割合によります。3施設の確認で、相場ではありません。
自費の1回料金(約5,000〜11,000円)は保険の点数(20,000円相当)より安く見えますが、刺激時間(15分 vs 40分)と機器が違います。安い理由が「保険の手順を短くしたから」なら、それは効果を示した治療と同じではありません。「約7割が治療反応」「約4.5割が寛解」という施設の数字は出典が示されておらず、二重盲検試験の値(反応15〜24%・寛解14%)とは別のものです。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。
⑦ 診察で聞くこと
そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。
- 私は保険のTMS(中等症以上・薬で効果不十分・承認機器)の対象ですか。対象なら、なぜ自費で受ける必要がありますか。
- 使う機器は承認機器(NeuroStar)ですか。認証機器や個人輸入品なら、うつ病治療の承認がないことを理解しています。1回の刺激時間と手順は、効果を示した試験と同じですか。
- 双極性障害の可能性は評価しましたか。けいれんが起きたときの対応体制はありますか。
- 何回で効果を判定し、効かなかったら次に何をしますか。効いた場合の維持の計画と費用は。
関連する読みもの
出典
最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。
- 日本精神神経学会 反復経頭蓋磁気刺激装置適正使用指針(令和5年9月改訂、PDF)対象疾患、承認(2017年9月)、有効性(SMD 0.45/0.60、反応率・寛解率・レジストリ)、再発率10〜30%、副作用頻度(けいれん0.003%/セッション)、適応・適応外、実施施設基準、保険での実施(1日40分・週5日・4〜6週)。PDF原文を確認
- 厚生労働省 保医発0305第6号(令和6年3月5日)基本診療料・特掲診療料の施設基準等 第47の6 経頭蓋磁気刺激療法施設基準(精神科を標榜する病院、5年以上・研修修了の常勤精神科医、認知行動療法研修修了医、精神科救急等の届出)。PDF原文を確認
- 医科点数表 I000-2 経頭蓋磁気刺激療法(令和8年版、点数表転載サイトで確認)2,000点、対象(抗うつ剤で十分な効果が認められない成人うつ病、除外例)、8週30回、HAMD17/24評価と中止・漸減の基準。転載サイトで確認したため二次資料扱い
- Mutz J, et al. BMJ. 2019;364:l1079113試験6,750人のネットワークメタ解析。反応の勝算比(HF左rTMS 3.17、iTBS 3.20、ECT 8.91)。PubMed抄録で確認
- Blumberger DM, et al. Lancet. 2018;391(10131):1683-1692/Senova S, et al. Brain Stimul. 2019;12(1):119-128/Cole EJ, et al. Am J Psychiatry. 2022;179(2):132-141THREE-D(iTBS非劣性、頭痛64〜65%)、持続(12か月46.3%)、SNT(29人、52.5% vs 11.1%)。PubMed抄録で確認
- 日本児童青年精神医学会「子どもに対する反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法に関する声明」2024年4月2日施設基準を満たさない機関の18歳未満への保険外rTMS、「有効性と安全性の証左は不十分」、RCTでの確立を求める。原文ページを確認
- TAMAS 販売元製品ページ(一般的名称: 磁気刺激装置、認証番号228AIBZX00009000、管理医療機器クラスII)うつ病等は「臨床研究適用」と表記。PMDAの添付文書PDFは取得できず、販売元ページで確認
- 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、3施設)1回4,950〜11,000円、コース159,500〜281,600円、1回約15分、機器(TAMAS・個人輸入の記載)、効果の数字(出典なし)、保険の条件の説明。施設名は扱いません