鼻のヒアルロン酸注入・プロテーゼ(隆鼻)
鼻を高くする技術は確立しています。確立していないのは「失明を避ける方法」で、指針は「完全に回避する方法は存在しない」と書いています。だから鼻は、価格より先に、何を注入するかと誰が注入するかを聞く部位です。
鼻筋を高くする方法は、ヒアルロン酸を注入する方法(半年〜2年で吸収)と、シリコンのプロテーゼを入れる手術(半永久)があります。効果自体は確実です。問題はリスクの種類です。世界の失明例365例(2018〜2023年)の注入部位は鼻が40.6%で最多、製剤の79.6%がヒアルロン酸、視力が完全に戻ったのは6.0%でした。日本の大規模施設の集計では血管閉塞は290,307部位中10件(0.0041%)です。承認製剤(ジュビダームビスタ等)の添付文書は「隆鼻術は本品の適応に含まれない」と明記しています。プロテーゼは7研究1,233人のメタ解析で、自家軟骨に比べ合併症が3倍、再手術が3倍でした。ヒアルロン酸は1本3万〜10万円、プロテーゼは10万〜44万円です。
① 国内で承認されている使い方
ヒアルロン酸製剤は、国内承認品(ジュビダームビスタ、レスチレン等)と未承認品が混在します。承認品の使用目的は中顔面・下顎・こめかみ・鼻唇溝などで、隆鼻は適応に含まれず、鼻への注入は承認品でも適応外です。ヒアルロン酸を溶かすヒアルロニダーゼは国内未承認です。プロテーゼ(シリコン・ゴアテックス等)は外科手術で、承認・届出の対象ではありません。自家軟骨(耳介・肋軟骨・鼻中隔)を使う方法もあります。
② 臨床試験で確かめられていること
ヒアルロン酸: 注入直後から高くなり、製剤により半年〜2年で吸収されます。可逆的なのが利点ですが、溶解剤が国内未承認である点が可逆性の前提を弱めています。
プロテーゼ: 効果は半永久。ただし異物なので、感染・露出・ずれが年単位で起こり、抜去・入れ替えになる可能性が一生続きます。
自家軟骨: 異物反応が少なく合併症・再手術が少ない一方、採取部位の傷と、軟骨の変形・吸収があります。
「鼻を高くする」効果に差はなく、差は「何が起きうるか」と「起きたときに戻せるか」です。
- 誰に
- 世界で報告された部分または完全な視力喪失365例
- 何を
- 顔面へのフィラー注入(ヒアルロン酸79.6%)
- 何と比べて
- —(症例集積)
- どうなった
- 注入部位: 鼻40.6%、額27.7%、眉間19.0%。転帰(318例): 完全回復6.0%、部分改善25.8%、回復なし68.2%。随伴: 眼瞼下垂56.2%、眼球運動障害44.1%、皮膚変化73.2%。治療(ヒアルロニダーゼ70.1%、ステロイド57.3%、動注血栓溶解56.0%)はいずれも「有意に視力改善と関連せず」
- 誰に
- 2020年10月〜2024年4月にヒアルロン酸注入を受けた209,083人(290,307部位)
- 何を
- ヒアルロン酸注入(全部位)
- 何と比べて
- —
- どうなった
- 重篤合併症12件(感染2、血管閉塞10)、発生率0.0041%。血管閉塞の部位は額8、鼻唇溝1。「重篤合併症の率は低いが、さらに下げる注意が必要」
- 誰に
- 隆鼻術を受けた1,233人(7研究)/1999〜2018年の複数研究
- 何を
- シリコンプロテーゼ
- 何と比べて
- 自家軟骨
- どうなった
- Wu: 自家軟骨は合併症RR 0.34(0.22〜0.52)、再手術RR 0.34(0.18〜0.64)、満足度RR 1.11(1.02〜1.21)。Hudise: 合併症は人工材料7.8% vs 自家6.9%、感染2.1%、再手術4.1%、「アジア人は合併症が少ない」
- 誰に
- 人工材料(シリコン・ePTFE・高密度ポリエチレン)で隆鼻した3,803例(27研究)
- 何を
- 人工プロテーゼ
- 何と比べて
- —
- どうなった
- 合併症2.75%(1.61〜4.17)、感染1.91%、偏位0.72%、血腫0.78%、露出0.49%、再手術6.40%(3.84〜9.57)。PubMed抄録で確認
この数値はレビュー論文を通じて確認したものです。原著論文そのものの確認は済んでいません。
- 誰に
- 顔のシワ・ボリュームロスの改善を希望する人
- 何を
- ヒアルロン酸製剤の注入
- 何と比べて
- —
- どうなった
- 推奨度2(弱く推奨)。「血管内への誤注入による皮膚壊死や失明などの重篤な合併症の報告」「現在,合併症を完全に回避する方法は存在しない」「ヒアルロニダーゼ製剤(本邦未承認)」「承認品を第一選択とすべき」「承認外の製剤はFDA承認やCEマークの有無なども考慮し慎重に」
※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。
③ まだ答えの出ていないこと
- 日本での鼻へのヒアルロン酸注入の失明・壊死の発生率。国内集計(0.0041%)は全部位の合算で、鼻に限った数字がありません。
- ヒアルロニダーゼの用量と投与法の標準。系統的レビューは「顔面での至適プロトコルを確立する研究が必要」としています。
- プロテーゼの20年以上の経過(露出・変形・抜去率)。
- 未承認製剤と承認製剤で合併症率に差があるか。
④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え
添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。
- 起こる時期
- 直後〜1〜2週間。
- 備え
- プロテーゼは1〜2週間の腫れ。ヒアルロン酸は数日。
- 起こりやすい人
- 鼻・眉間・額への注入、鼻の手術歴、高圧・大量の注入。
- 起こる時期
- 注入中〜数時間(4〜6時間が勝負)。
- 備え
- 強い痛み・白くなる・網目状の紫斑は血管閉塞のサイン。直ちに高用量ヒアルロニダーゼ。早期なら8割で可逆とされます。
- 起こりやすい人
- 鼻(40.6%)・額・眉間への注入。
- 起こる時期
- 注入直後。
- 備え
- 視力低下・眼痛が出たら注入を止めて眼科救急へ。回復は6%。「完全に回避する方法はない」(指針)。
- 起こりやすい人
- 皮膚の薄い人、大きいプロテーゼ、鼻先まで入れる設計。
- 起こる時期
- 数週間〜数年、露出は年単位。
- 備え
- 感染1.9%、露出0.5%、再手術6.4%。赤み・痛み・皮膚が薄くなる・透けて見えるは抜去のサイン。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。
- 起こる時期
- 数週間〜数か月。
- 備え
- ヒアルロン酸はしこりを溶解(未承認薬)で対応、プロテーゼは入れ替え。
- 起こりやすい人
- 受けたすべての人。
- 起こる時期
- 半年〜2年。
- 備え
- 繰り返すたびに失明リスクを引き直します。
⑤ やめるとき
ヒアルロン酸は半年〜2年で吸収され、維持には繰り返しが必要。プロテーゼは半永久ですが、合併症で抜去することがあります。
ヒアルロン酸は放置すれば消えます(溶解は未承認薬)。プロテーゼは抜去手術が必要です。
ヒアルロン酸は元に戻ります。プロテーゼを抜くと、被膜の収縮や皮膚のたるみで元の形に戻らないことがあります。
ヒアルロン酸は1回払い。プロテーゼは抜去・入れ替えの費用(他院修正は割高)を術前に確認。
⑥ 価格
A施設はヒアルロン酸を製剤別に30,000円(ニューラミス)〜100,000円(クレヴィエル)、ジュビダームビスタ80,000円、プロテーゼ275,000円・オーダーメイド440,000円、麻酔3,300円〜。B施設はボリューマXC 1cc 60,500円、プロテーゼ198,000円(他院入れ替え286,000円)、鼻尖形成275,000円、麻酔60,500〜88,000円。C施設はボラックスXC 66,000円・別製剤81,270円、プロテーゼ99,810円(割引69,860円)〜280,000円、静脈麻酔31,900円。同じ承認製剤1ccで最安と最高が1.3倍、プロテーゼで最安と最高が4.4倍。3施設の確認で、相場ではありません。
ヒアルロン酸の価格差は製剤(承認品か未承認品か、硬さ)の差で、鼻には硬い製剤が使われ高めです。麻酔代(0〜88,000円)の有無で総額が大きく変わります。半年〜2年ごとに繰り返す前提なら、ヒアルロン酸は年額で、プロテーゼは「抜去・入れ替えの費用」を含めて比べてください。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。
⑦ 診察で聞くこと
そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。
- 注入する製剤の名前は何で、承認品ですか。承認品でも鼻は適応外だと理解していますが、その説明を書面でもらえますか。
- ヒアルロニダーゼをこの施設に常備していますか。血管閉塞や視力の異常が起きたときの手順(何分以内に何をするか、眼科との連携)は。
- 私は鼻の手術歴があります/ありません。血管の走行と失明リスクについてどう評価しましたか。
- プロテーゼの場合、自家軟骨と比べて合併症・再手術が多いことをどう考えますか。感染・露出したときの抜去・入れ替えの費用は。
- 価格に麻酔代(静脈麻酔3万〜6万円の施設あり)は含まれますか。
関連する読みもの
出典
最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。
- Doyon VC, et al. Aesthet Surg J. 2024;44(10):1091-11042018〜2023年の失明365例。鼻40.6%、HA 79.6%、完全回復6.0%、治療と回復に有意な関連なし。PubMed抄録で確認
- Beleznay K, et al. Dermatol Surg. 2015;41(10):1097-1117/Sorensen EP, Council ML. Dermatol Surg. 2020;46(5):671-67798例(眉間38.8%・鼻25.5%、脂肪47.9%)、2015〜2018年の60例(鼻55.0%、HA 70.0%、回復16.7%)。PubMed抄録で確認
- Tamura T, et al. Ann Plast Surg. 2025;94(6):630-633日本の大規模施設。209,083人・290,307部位で重篤合併症12件(0.0041%)。PubMed抄録で確認
- Wu C, et al. Ann Palliat Med. 2022;11(3):993-1000/Hudise JY, et al. Braz J Otorhinolaryngol. 2022;88(3):406-420/Keyhan SO, et al. Maxillofac Plast Reconstr Surg. 2022;44(1):17自家軟骨 vs シリコン(合併症RR 0.34、再手術RR 0.34)、人工7.8% vs 自家6.9%、人工材料3,803例(感染1.91%、露出0.49%、再手術6.40%)。PubMed抄録で確認したため一部二次資料扱い
- Madero-Pérez J, et al. Aesthetic Plast Surg. 2026;50(5):2068-2082/Borzabadi-Farahani A, et al. Aesthetic Plast Surg. 2024;48(6):1193-1209血管閉塞は4〜6時間以内の介入で早期虚血の8割が可逆、高用量ヒアルロニダーゼ1,500単位を15〜20分ごと。顔面での至適用量のRCTなし。PubMed抄録で確認したため二次資料扱い
- 日本美容外科学会(JSAPS)ほか「美容医療診療指針(令和3年度改訂版)」第2章第2節 吸収性フィラー注入治療推奨度2、失明・皮膚壊死の注意、ヒアルロニダーゼ本邦未承認、承認品を第一選択、合併症を完全に回避する方法はない。PDF原文を確認
- ジュビダームビスタ ボリューマXC 添付文書の記載(クリニック公開ページの引用で確認)「眼瞼における使用及び隆鼻術は本品の適応に含まれない」、承認2016年9月・使用目的(中顔面・下顎部・こめかみ)。添付文書原本は医療関係者向けサイトのログインが必要で未確認のため二次資料
- 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、3施設)ヒアルロン酸30,000〜100,000円/本、60,500円/cc、66,000〜81,270円/cc、プロテーゼ99,810〜440,000円、麻酔3,300〜88,000円。施設名は扱いません