自由診療の料金・リスク・根拠を、受ける前に。医院レポート5院 · 資料確認 2026-09-21
自由診療チェック効果の根拠・リスク・費用を確かめる 診察前の質問メモ
治療をさがす›男性
男性

男性更年期のテストステロン補充療法(TRT)

別の言い方: 男性更年期/LOH症候群/テストステロン補充/男性ホルモン注射/エナルモンデポー/テストステロン 低い 治療/男性更年期 自費/TRT 副作用/テストステロン 前立腺/グローミン

「男性ホルモンを足せば若返る」は半分正しい。性欲と気分には効き、疲れには効かず、心臓には中立で、骨には不利に出た。この4つを分けて聞くのが、この治療の正しい受け方です。

結論 ── うたわれている効果は
テストステロンが低い人の性欲・性活動と気分には効きます。疲れ・活力への効果は一貫せず、骨折が増えた試験があります

男性更年期(LOH症候群)に対し、テストステロンを注射やクリームで補う治療です。日本泌尿器科学会と日本メンズヘルス医学会の「診療の手引き」(2022年)は、診断基準を総テストステロン250ng/dL以下またはフリーテストステロン7.5pg/mL以下とし、「LOH症候群は本邦でも保険収載されていない」と書いています。5,246人の無作為化試験(TRAVERSE)では心血管イベントはプラセボと同等(7.0% vs 7.3%)でしたが、心房細動・急性腎障害・肺塞栓が多く、骨折は3.50% vs 2.46%(1.43倍)でした。65歳以上790人の試験では性活動が改善し、活力は改善しませんでした。注射薬の薬価は250mgで1,295円、自費の表示価格は3,300〜4,500円です。

1LOH症候群診療の手引き(2022年12月改訂): 診断基準は「血清(総)テストステロン値が250ng/dL以下または血清フリーテストステロン値が7.5pg/mL」。「LOH症候群はICD-11には収載されておらず、本邦でも保険収載されていない」。禁忌は前立腺癌・男性乳癌などアンドロゲン依存性悪性腫瘍。うっ血性心不全・多血症・前立腺肥大症・骨転移は注意。「TRT開始後1年以内は慎重に経過をみる」「多血症をきたす可能性があり定期的な採血」「造精機能障害を高頻度で生じるため挙児希望の有無を確認」。
2TRAVERSE(Lincoff 2023、45〜80歳・テストステロン300ng/dL未満・心血管リスクのある5,246人、平均21.7か月): 心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合は7.0% vs 7.3%(HR 0.96、95%CI 0.78〜1.17)で非劣性。心房細動・急性腎障害・肺塞栓はテストステロン群で多い。骨折は3.50% vs 2.46%(HR 1.43、1.04〜1.97)。高悪性度前立腺癌は0.19% vs 0.12%(有意差なし)。
3Testosterone Trials(Snyder 2016、65歳以上・275ng/dL未満の790人、12か月): 性活動は有意に増加(p<0.001)、勃起機能も改善。活力・疲労は改善せず。気分は軽度改善。TRAVERSEの性欲低下1,161人の解析では性活動が1日0.49回分増加、勃起機能は差なし。
4個別データメタ解析(Cruickshank 2024、35試験・5,601人): 心血管・脳血管イベントは7.5% vs 7.2%(OR 1.07、0.81〜1.42)で差なし。性機能とQOLは「ほぼすべての部分集団で改善」。
エビデンスの水準
★★★
大規模無作為化試験(5,246人)・個別データメタ解析あり・学会の診療の手引き(2022)あり・保険と自費が併存
承認の状況
承認薬(男子性腺機能不全は保険/LOH症候群としての処方は自費が多い)
価格の幅
250mg注射1回 3,300〜4,500円(月1〜2回)+初診5,500円・再診3,300円の施設あり(3施設)
注射1回の表示価格(税込・薬剤と手技)

① 国内で承認されている使い方

テストステロン製剤(エナルモンデポー=テストステロンエナント酸エステル筋注、あすか製薬)は「男子性腺機能不全(類宦官症)」などの効能で承認された保険薬です。LOH症候群(加齢に伴う男性更年期)は保険病名として収載されておらず、診断が男子性腺機能不全に当たれば保険で、当たらなければ自費で注射する運用が併存しています。市販のテストステロン軟膏(第1類医薬品)もあります。海外のジェル製剤(アンドロゲル等)は国内未承認で個人輸入です。

対象
国内での承認
エナルモンデポー筋注125mg/250mg(テストステロンエナント酸エステル)
承認薬。効能は男子性腺機能不全・男子不妊症・再生不良性貧血等。薬価712円/1,295円。2〜4週ごと筋注
LOH症候群(男性更年期)への処方
手引きは「保険収載されていない」。施設により保険(男子性腺機能不全)と自費が併存
テストステロン軟膏(第1類医薬品、グローミン等)
市販薬。手引きが「一類医薬品に該当する軟膏製剤も利用可能」と記載
海外製ジェル・経口製剤(アンドロゲル、ネビド等)
国内未承認。医師の個人輸入
—禁忌は前立腺癌(疑いを含む)、男性乳癌、妊婦。添付文書は「男性に投与する場合には、定期的に前立腺の検査を行うこと」を求めています。PSAと直腸診を受けずに注射だけ打つ施設は要件を満たしません。
—挙児希望がある人には原則使いません。外から補うと精巣の産生が止まり、精子が減ります(添付文書: 大量継続投与で精巣萎縮・精子減少)。
—手引きは「テストステロン補充療法についてはテストステロン値にこだわらないとした」とし、基準値以上でも有症状なら有効な可能性に触れています。ただし大規模試験の対象はいずれも「低値」の人で、正常値の人への効果は示されていません。

② 臨床試験で確かめられていること

性欲・性活動: 一貫して改善します。勃起機能は試験により差が出たり出なかったりです。

気分・エネルギー: 軽度の改善。うつ病の治療にはなりません。

疲労・活力・身体機能: 65歳以上の試験で改善せず。「元気になる」という期待には根拠が弱い。

心血管: 短中期(1〜3年)で心血管イベントは増えませんでした。ただし心房細動・肺塞栓は増え、冠動脈の非石灰化プラークが増えた小規模試験(170人)があります。骨密度は上がるのに骨折が増えた矛盾は未解決です。

心血管安全性(TRAVERSE)Lincoff AM, et al. Cardiovascular Safety of Testosterone-Replacement Therapy. N Engl J Med. 2023;389(2):107-117
誰に
45〜80歳、テストステロン300ng/dL未満(2回測定)、性腺機能低下症状があり、心血管疾患またはその高リスクの男性5,246人
何を
テストステロン1.62%ジェル(目標350〜750ng/dL)を毎日、平均21.7か月
何と比べて
プラセボジェル
どうなった
心血管死・非致死性心筋梗塞・脳卒中の複合: 7.0%(182/2,591) vs 7.3%(190/2,613)、HR 0.96(95%CI 0.78〜1.17)、非劣性。心房細動・急性腎障害・肺塞栓はテストステロン群で多い
TRAVERSEの副次解析(骨折・前立腺・気分・性機能)Snyder PJ, et al. N Engl J Med. 2024;390(3):203-211/Bhasin S, et al. JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2348692/Bhasin S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2024;109(7):1814-1826/Pencina KM, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2024;109(2):569-580
誰に
TRAVERSE参加者5,204人(性欲低下の解析は1,161人)
何を
テストステロンジェル
何と比べて
プラセボ
どうなった
臨床骨折: 3.50%(91/2,601) vs 2.46%(64/2,603)、HR 1.43(1.04〜1.97)。高悪性度前立腺癌: 0.19% vs 0.12%(HR 1.62、0.39〜6.77、有意差なし)。抑うつ症状: 気分とエネルギーは「小さいが有意な改善」、認知・睡眠は差なし。性活動: 6か月で1日あたり+0.49回分(p=0.011)、勃起機能は差なし
65歳以上での効果(Testosterone Trials)Snyder PJ, et al. Effects of Testosterone Treatment in Older Men. N Engl J Med. 2016;374(7):611-624
誰に
65歳以上、テストステロン275ng/dL未満、症状のある男性790人
何を
テストステロンジェル(19〜40歳の正常中央値を目標)、12か月
何と比べて
プラセボ
どうなった
性活動は有意に増加(p<0.001)、勃起機能も改善。6分間歩行の改善は3試験合算で20.5% vs 12.6%(p=0.003)だが身体機能試験単独では差なし。活力・疲労は改善せず。気分は軽度改善。有害事象は同等
心血管イベントの個別データメタ解析Cruickshank M, et al. Health Technol Assess. 2024;28(43):1-210
誰に
35の無作為化試験・5,601人(個別データ17試験・3,431人)
何を
テストステロン補充
何と比べて
プラセボ
どうなった
心血管・脳血管イベント: 7.5%(120/1,601) vs 7.2%(110/1,519)、OR 1.07(0.81〜1.42、p=0.62)。性機能とQOLは「ほぼすべての部分集団で改善」。「短中期での関連は支持されない」
日本の診療の手引き日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会「LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き」2022年12月
誰に
LOH症候群が疑われる男性
何を
テストステロン補充療法(エナント酸エステル125〜250mgを2〜4週ごと筋注、軟膏など)
何と比べて
—
どうなった
診断基準: 総テストステロン250ng/dL以下またはフリー7.5pg/mL。保険収載なし。禁忌: 前立腺癌・男性乳癌。注意: うっ血性心不全・多血症・前立腺肥大・骨転移・抗凝血剤。開始1年以内は慎重、多血症の定期採血、挙児希望の確認。前立腺癌リスク増加のエビデンスなし。投与4〜7日後のフリーテストステロン測定を推奨

※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。

③ まだ答えの出ていないこと

④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え

添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。

注射直後〜数日数週間〜数か月年単位(継続中)やめたとき注射部位の痛み・硬結ニキビ・脱毛・気分の高揚・乳房の張り心房細動・むくみ・血圧上昇多血症(ヘマトクリット上昇)・血栓精子の減少・精巣の萎縮前立腺肥大の悪化・PSA上昇骨折(増加の報告)やめたときの症状の再燃よくある重大(まれでも見逃さない)
図|副作用の起こる時期のめやす。下の各項目の「起こる時期」の記述を、当サイトが図にした定性的な整理です。幅には個人差があり、この図の外で起こることもあります。頻度の大小を示すものではありません。重大な帯が多いのは、定期検査(採血・前立腺)で管理する前提の治療だからです。検査なしの注射だけの施設は、この図の前提を満たしません。出典: 添付文書・臨床報告(詳細は下の各項目と出典欄)/加工: あり(時期の記述の図示)
注射部位の痛み・硬結よくある
起こりやすい人
誰にでも(筋注)。
起こる時期
注射当日〜数日。
備え
同一部位への反復注射を避けるよう添付文書が指示。
多血症(ヘマトクリット上昇)・血栓重大
起こりやすい人
注射製剤で特に、喫煙者、睡眠時無呼吸のある人。
起こる時期
数か月〜。
備え
定期採血でヘマトクリットを確認(欧米の指針は48〜54%超で中止)。TRAVERSEで肺塞栓が増加。片脚の腫れ・息切れは救急。
精子の減少・精巣の萎縮重大
起こりやすい人
受けたすべての人。大量・長期で顕著。
起こる時期
数か月〜。
備え
挙児希望があるなら受けない。中止後の回復には時間がかかります。
前立腺肥大の悪化・PSA上昇重大
起こりやすい人
前立腺肥大のある人、高齢者。
起こる時期
数か月〜。
備え
定期的な前立腺検査(PSA・直腸診)が添付文書の要件。前立腺癌(疑い)は禁忌。
心房細動・むくみ・血圧上昇重大
起こりやすい人
心疾患・腎疾患のある人(体液貯留)。
起こる時期
数週間〜。
備え
TRAVERSEで心房細動・急性腎障害が増加。動悸・むくみは受診。
骨折(増加の報告)重大
起こりやすい人
高齢者。
起こる時期
年単位。
備え
TRAVERSEで1.43倍。骨密度は上がるのに骨折が増えた理由は未解決。
ニキビ・脱毛・気分の高揚・乳房の張りよくある
起こりやすい人
誰にでも。
起こる時期
数週間〜。
備え
添付文書に記載。用量調整で対応。
やめたときの症状の再燃よくある
起こりやすい人
受けたすべての人。
起こる時期
中止後数週間〜数か月。
備え
自前の産生が抑えられているため、一時的に開始前より低くなることがあります。

⑤ やめるとき

いつまで続けるのか

効果は投与中だけ持続します。手引きに終了の目安はなく、欧米の指針は「十分な治療でも改善がなければ中止」で一致しています。

途中でやめられるか

いつでもやめられます。ただし自前の産生が抑えられているため、中止後数週間〜数か月は開始前より低くなり、症状が一時的に強く出ることがあります。医師と減量計画を。

やめたらどうなるか

症状は戻ります。精子の産生は回復に数か月〜年単位かかることがあります。

お金はどうなるか

注射ごとの支払い。まとめ買いは、検査(ヘマトクリット・PSA)を飛ばす誘因になるので避けたほうが安全です。

⑥ 価格

品目
公定価格(薬価)
クリニック表示価格
エナルモンデポー筋注250mg 1回
薬価 薬価 1,295円/管
表示 3,300〜4,500円(3施設)
エナルモンデポー筋注125mg 1回
薬価 薬価 712円/管
表示 3,200円(1施設)

A施設は250mg 3,300円(2023年8月改定)。B施設は250mg 3,300円、3〜6か月ごとの血液検査が必要と記載。C施設は250mg 4,400円(オンライン)・4,500円(来院)、125mg 3,200円、初診5,500円・再診3,300円、他の製剤3,080〜4,200円。2〜4週ごとの注射で年額は4〜12万円に診察・検査料が加わります。薬価との差は2.5〜3.5倍で、手技・診察・利益にあたります。3施設の確認で、相場ではありません。

薬価のある薬なので、表示価格−薬価が「手技・診察・利益」です。保険で受けられる場合(男子性腺機能不全の診断)は3割負担で数百円台の薬剤費になり、自費との差が大きい治療です。ただし保険か自費かは診断と施設の運用によるため、まず聞いてください。検査(PSA・採血)の費用を含めた年額で考えてください。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。

⑦ 診察で聞くこと

そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。

  1. 私のテストステロン値(総・フリー)はいくつで、手引きの基準(250ng/dL・7.5pg/mL)に当てはまりますか。朝の採血ですか。
  2. 私の症状(性欲・気分・疲れ)のうち、試験で改善が示されているのはどれで、示されていないのはどれですか。
  3. 前立腺(PSA・直腸診)とヘマトクリットの検査を、開始前と何か月ごとに行いますか。挙児希望について確認されましたか。
  4. この注射は保険で受けられる場合がありますか(男子性腺機能不全の診断)。自費の場合、薬価1,295円の薬の1回価格に何が含まれますか。
  5. 6か月で効果がなければやめる、という基準を共有できますか。

関連する読みもの

出典

最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。

  1. 日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会「LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き」2022年12月(PDF、142ページ)改訂のポイント(診断基準250ng/dL・7.5pg/mL、TRTは値にこだわらない、保険収載なし)、禁忌・注意、副作用の要旨(1年以内慎重、多血症、造精機能障害、前立腺癌リスクのエビデンスなし)、本邦の薬剤(エナント酸125〜250mg 2〜4週、一類医薬品軟膏)、欧米指針の比較(6か月で改善なければ中止、Hct 48〜54%)。日本泌尿器科学会サイトのPDF原文を確認
  2. エナルモンデポー筋注125mg/250mg 添付文書(KEGG MEDICUS収載版で確認)効能(男子性腺機能不全ほか)、用法(100mgを7〜10日ごと/250mgを2〜4週ごと)、薬価712円・1,295円、禁忌(前立腺癌・妊婦)、8.1 定期的な前立腺検査、9.1 前立腺肥大・心疾患・骨転移、11.2 陰茎肥大・持続性勃起・精巣萎縮・精子減少、多幸症状、脱毛、注射部位疼痛
  3. Lincoff AM, et al. N Engl J Med. 2023;389(2):107-117(TRAVERSE)5,246人。MACE 7.0% vs 7.3%、HR 0.96。心房細動・急性腎障害・肺塞栓の増加。PubMed抄録で確認
  4. Snyder PJ, et al. N Engl J Med. 2024;390(3):203-211/Bhasin S, et al. JAMA Netw Open. 2023;6(12):e2348692/Bhasin S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2024;109(7):1814-1826/Pencina KM, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2024;109(2):569-580TRAVERSE副次解析: 骨折HR 1.43、前立腺癌差なし、気分は小さな改善、性活動+0.49回/日・勃起は差なし。PubMed抄録で確認
  5. Snyder PJ, et al. N Engl J Med. 2016;374(7):611-624(Testosterone Trials)65歳以上790人。性活動改善、活力は改善せず、気分は軽度改善。PubMed抄録で確認
  6. Cruickshank M, et al. Health Technol Assess. 2024;28(43):1-21035試験の個別データメタ解析。心血管イベントOR 1.07、性機能・QOL改善。PubMed抄録で確認
  7. Budoff MJ, et al. JAMA. 2017;317(7):708-716170人。テストステロンで冠動脈の非石灰化プラークが増加(差41mm³)。PubMed抄録で確認
  8. 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、3施設)250mg 3,300円(2施設)、4,400〜4,500円+初診5,500円・再診3,300円、125mg 3,200円、3〜6か月ごとの血液検査の記載。施設名は扱いません