ホルモン補充療法(美容・若返り目的の自費HRT)
更年期の症状にホルモンが効くのは、承認され保険で使えるほど確かです。その確かさを、「肌が若返る」「老化が止まる」という別の約束に流用しているのが、美容目的の自費HRTです。前提が正しいからこそ、飛んでいる段を数える必要があります。
閉経前後に減るエストロゲン(と黄体ホルモン)を補う治療です。更年期障害のほてり・発汗・泌尿生殖器の萎縮、閉経後骨粗鬆症には承認薬(エストラーナテープ、エフメノカプセルなど)があり、保険で受けられます。美容クリニックが提供する「ナチュラルホルモン」「バイオアイデンティカルホルモン」は、エストロゲン・プロゲステロンにDHEA・甲状腺ホルモン・成長ホルモン・メラトニンなどを加えた海外製の未承認薬を個人輸入で処方するもので、「体の中から若返る」「老化をストップ」とうたいます。しかし、閉経直後の女性を4年追った無作為化試験(KEEPS皮膚研究)では、しわの点数も肌の硬さもホルモン群とプラセボ群で差がありませんでした。皮膚のコラーゲン量は1年で増えたという小規模試験はあります。一方、乳がんのリスクはエストロゲン+黄体ホルモンで1〜4年の使用で1.60倍、5〜14年で2.08倍(10万人超の個人データ解析)、血栓症や脳卒中も増えます(WHI: 1万人年あたり乳がん8件・脳卒中8件・肺塞栓8件の増加)。18年の追跡で総死亡は増えも減りもしていません(HR 0.99)。承認薬の薬価はエストラーナテープ0.72mgが1枚66.1円、自費の「ナチュラルホルモン」は月22,000〜33,000円に検査・管理費が年10〜14万円です。
① 国内で承認されている使い方
エストロゲン製剤(エストラーナテープ、ジュリナ錠、ル・エストロジェル、プレマリン錠など)と黄体ホルモン製剤(エフメノカプセル、デュファストン、プロベラなど)は、更年期障害・卵巣欠落症状、閉経後骨粗鬆症などの効能で承認され、保険診療の対象です。「美容」「若返り」「アンチエイジング」は承認された効能ではなく、症状のない人への使用は承認外です。美容クリニックの「ナチュラルホルモン」「バイオアイデンティカルホルモン」は、海外で調製された未承認品を医師が個人輸入して処方するもので、エストロゲン以外にDHEA、テストステロン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、メラトニン、プレグネノロンなどを組み合わせます。国内で承認・保険の道がある治療を、未承認品で自費に置き換える構図です。
② 臨床試験で確かめられていること
更年期症状(ほてり・発汗・膣の乾燥): 効きます。承認の根拠があり、保険で受けられます。
骨: 閉経後骨粗鬆症の骨折を減らします(Cochrane: エストロゲン単独7年で骨折1,000人あたり141→92〜113)。
肌: コラーゲン量が増える小規模試験はありますが、見た目(しわ・硬さ)は4年の無作為化試験で差がありませんでした。
全身の「若返り」(筋肉量・体脂肪・気力): 更年期HRTの試験でそのように測って示されたものを当サイトは確認していません。施設の説明は体験談です。
- 誰に
- 閉経後3年以内の健康な女性(KEEPS皮膚付随研究、結合型エストロゲン/経皮エストラジオール/プラセボに無作為化)
- 何を
- ホルモン補充療法4年
- 何と比べて
- プラセボ
- どうなった
- しわの総点数・肌の硬さの総点数は開始時も4年間も群間で差なし。人種が皮膚老化の進行の最大の予測因子。「HTは顔のほとんどの部位でしわや硬さに影響しないようだ」
- 誰に
- 閉経後女性118人(4群に無作為化)+年齢別対照
- 何を
- 各種ホルモン補充療法12か月
- 何と比べて
- 無治療対照
- どうなった
- 皮膚コラーゲン量は40代以降・閉経後に減少(p<0.001/0.01)。HRT各群で12か月後にコラーゲン量が増加、対照群は有意に減少。見た目の評価はなし。1992年の小規模試験
- 誰に
- 閉経後に乳がんを発症した108,647人を含む前向き研究58件の個人データ
- 何を
- 閉経期ホルモン療法(種類・期間別)
- 何と比べて
- 未使用
- どうなった
- 現在使用者の相対リスク: エストロゲン+黄体ホルモン1〜4年1.60(1.52〜1.69)、5〜14年2.08(2.02〜2.15)。エストロゲン単独1.17/1.33。黄体ホルモンを毎日使うと高い(2.30)。中止後10年以上一部のリスクが残る。膣エストロゲンは増加なし。乳癌診療ガイドライン2022は絶対増加を1,000人年あたり1.0未満、中止後3〜5年で消失としています
- 誰に
- 50〜79歳の閉経後女性16,608人(併用療法)/27,347人(18年追跡)
- 何を
- 結合型エストロゲン0.625mg+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mg(または単独)
- 何と比べて
- プラセボ
- どうなった
- 5.2年でHR: 冠動脈疾患1.29、乳がん1.26、脳卒中1.41、肺塞栓2.13、大腸がん0.63、股関節骨折0.66。1万人年あたり+7・+8・+8・+8、−6・−5。18年の総死亡27.1% vs 27.6%(HR 0.99、0.94〜1.03)。対象は平均63歳で、閉経直後の開始とは条件が異なります
- 誰に
- 閉経後女性43,637人(22研究、約7割がWHIとHERS、平均60歳超)
- 何を
- 併用HT/エストロゲン単独HT
- 何と比べて
- プラセボ
- どうなった
- 併用: 1年で冠動脈イベント2→3〜7/1,000、静脈血栓2→4〜11、3年で脳卒中6→6〜12、5.6年で乳がん19→20〜30、胆嚢疾患27→38〜60。単独: 静脈血栓・脳卒中・胆嚢疾患は増加、7年で乳がん25→15〜25、骨折141→92〜113に減少。PubMed抄録で確認
この数値はレビュー論文を通じて確認したものです。原著論文そのものの確認は済んでいません。
※ 別々の試験の数値を並べています。試験ごとに対象者・期間・条件が異なるため、本来、数値同士を直接比べることはできません。それを承知のうえで、目安として並べています。
③ まだ答えの出ていないこと
- 閉経直後(50代前半)に始めた場合の長期リスク。WHIの対象は平均63歳で、若い開始でのリスクは小さいと考えられていますが、乳がんの相対リスクは開始年齢40〜59歳で同程度でした(Collaborative Group)。
- 「ナチュラルホルモン」(海外調製品)の含量・品質。国内審査を受けていません。
- DHEA・成長ホルモン・甲状腺ホルモンを健康な人に加えることの効果と害。このページでは検証していません。
- 見た目の若返りを主要評価とした、KEEPS以外の無作為化試験。当サイトは確認できませんでした。
④ 副作用 ── 起こりやすい人・起こる時期・備え
添付文書と臨床試験の報告に基づきます。頻度や重さはあなたの条件で変わります。ここに無い症状が出たときも、処方元に連絡してください。
- 起こりやすい人
- 誰にでも(開始初期)。
- 起こる時期
- 開始〜数か月。
- 備え
- 多くは軽快。出血が続くときは子宮内膜の検査。
- 起こりやすい人
- 肥満・喫煙・血栓の家族歴・長時間の不動。経口製剤で高い。
- 起こる時期
- 開始1〜2年で最も高い。
- 備え
- 併用1年で1,000人あたり2→4〜11。片脚の腫れ・急な息切れは救急。経皮製剤が第一選択。
- 起こりやすい人
- 60歳以上・閉経後10年以上での開始、高血圧、糖尿病。
- 起こる時期
- 開始1年〜。
- 備え
- WHIで脳卒中HR 1.41、冠動脈1.29(開始1年目に高い)。
- 起こりやすい人
- エストロゲン+黄体ホルモンの併用、長期。
- 起こる時期
- 1〜4年で1.60倍、5〜14年で2.08倍。中止後3〜5年(一部10年超)。
- 備え
- 年1回の乳がん検診を必ず。乳がん既往・家族素因は禁忌または慎重。
- 起こりやすい人
- 子宮のある人がエストロゲンだけを使う場合。
- 起こる時期
- 数年〜。
- 備え
- 黄体ホルモンの併用が必須。「ナチュラル」処方でも同じ。
- 起こりやすい人
- 誰にでも。
- 起こる時期
- 数年〜。
- 備え
- 5.6年で1,000人あたり27→38〜60。
- 起こりやすい人
- 海外製ナチュラルホルモンを使う人。成長ホルモン・甲状腺ホルモンを含む処方。
- 起こる時期
- 使用中ずっと。
- 備え
- 国内審査なし。救済制度対象外。甲状腺ホルモンの過量は不整脈・骨量低下、成長ホルモンは浮腫・関節痛・糖代謝への影響が知られています。
⑤ やめるとき
更年期症状の治療では、症状が落ち着けば減量・終了を検討します(年1回の見直し)。「若返り」目的には終わりの定義がなく、施設は継続を前提にしています。
いつでもやめられます。急にやめるとほてりが戻ることがあり、漸減する方法もあります。
更年期症状は戻ることがあります。乳がんのリスク増加は中止後3〜5年で消えるとされ、一部は10年以上残るという解析もあります。骨への効果は中止で失われます。
月額の薬代に加え、検査・管理費が年10〜14万円かかる施設があります。年額で見て、保険の治療と比べてください。
⑥ 価格
A施設(美容皮膚科): 検査41,910円、年間諸経費 初年度144,650円・2年目以降98,560円、ナチュラルホルモン薬 月9,240円〜、約8種類のホルモンを処方(2023年1月の記事)。B施設(美容外科): 採血22,000円、医師診断35,200円、薬 月22,000〜33,000円、3か月ごとの処方、エストロゲン・プロゲステロン・テストステロン・DHEA・甲状腺ホルモン・成長ホルモン・メラトニン・プレグネノロン。C施設(婦人科): ホルモン補充療法(自費)注射1回2cc 4,400円。D施設(婦人科): HRTは原則保険診療で、貼付剤中心。同じ「ホルモン補充」でも、承認薬・保険の施設と、未承認8種類・年20〜50万円の施設に分かれています。4施設の確認で、相場ではありません。
承認薬のエストラーナテープ0.72mgは2日に1枚で月約15枚、薬価で約1,000円。自費の「ナチュラルホルモン」との差は、薬の違いというより、更年期症状の治療(保険)を「若返り」(自費)に置き換えたことの差です。若返りの効果は測って差がなく、リスクは同じホルモンである限り消えません。観測日2026-09-05、施設名は扱いません。
⑦ 診察で聞くこと
そのまま読み上げられる形にしています。答えをはぐらかされた質問は、それ自体が判断の材料になります。
- 私に更年期の症状(ほてり・発汗・膣の乾燥)はありますか。あるなら保険の承認薬で治療できるはずですが、なぜ自費の未承認品なのですか。
- 処方されるホルモンは国内承認薬ですか、海外製の個人輸入品ですか。成分・含量の分析証明はありますか。
- 乳がん・血栓・脳卒中のリスクを、私の年齢・喫煙・家族歴でどう見ていますか。乳がん検診と子宮の検査はいつ受けますか。
- 成長ホルモンや甲状腺ホルモンも含まれますか。それぞれ何の目的で、何の根拠ですか。
- 1年の総額(検査・管理費・薬)と、やめる条件を教えてください。
関連する読みもの
出典
最終確認日 2026-09-05/内容をあらためたときは訂正の記録に残します。
- エストラーナテープ0.09mg/0.18mg/0.36mg/0.72mg 添付文書、エフメノカプセル100mg 添付文書(いずれもKEGG MEDICUS収載版で確認)効能(更年期障害・卵巣欠落症状の血管運動神経症状と泌尿生殖器萎縮、閉経後骨粗鬆症等/子宮内膜増殖症の発症抑制)、禁忌(乳がん既往・血栓症・動脈血栓塞栓症)、乳がん・冠動脈疾患の注意(WHI・MWS引用)、薬価(66.1円/枚、229.3円/カプセル)
- Owen CM, et al. Fertil Steril. 2016;106(5):1170-1175(KEEPS皮膚付随研究)/Castelo-Branco C, et al. Maturitas. 1992;15(2):113-1194年のRCTでしわ・肌の硬さに差なし/12か月で皮膚コラーゲン増加(118人、生検)。PubMed抄録で確認
- Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. Lancet. 2019;394(10204):1159-1168乳がん108,647例。E+P 1〜4年RR 1.60、5〜14年2.08、E単独1.17/1.33、中止後の残存。PubMed抄録で確認
- 日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン2022年版 疫学・予防 CQ2「閉経後女性ホルモン補充療法(HRT)は乳癌発症リスクを増加させるか?」併用長期でリスク増加(ほぼ確実)、単独は可能性あり、絶対増加1,000人年あたり1.0未満、中止後3〜5年で消失。原文ページを確認
- Rossouw JE, et al. JAMA. 2002;288(3):321-333/Manson JE, et al. JAMA. 2017;318(10):927-938/Marjoribanks J, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1:CD004143WHIのHRと1万人年あたりの絶対差、18年総死亡HR 0.99、Cochraneの1,000人あたりの変化。PubMed抄録で確認(Cochraneは二次資料扱い)
- 日本産婦人科医会「(2)更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)」承認製剤の一覧、乳がんリスクは5年以上で上昇(RR 1.1〜2.0)、血栓リスクのある人は経皮製剤が第一選択。原文ページを確認
- 複数のクリニック公開ページ(2026-09-05確認、4施設)検査・年間諸経費・月額薬代、処方ホルモンの種類(8種類)、「海外輸入医薬品で処方箋が必要」「若返り」「老化をストップ」等の表現、保険HRT施設の説明。施設名は扱いません